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広島地方裁判所 昭和42年(行ウ)37号 判決

広島県佐伯郡五日市町大字駅前二六番の二

原告

野村利男

右訴訟代理人弁護士

高橋一次

右訴訟復代理人弁護士

清信進

人見利夫

同県同郡廿日市町々八五八番地の六四五

被告

廿日市税務署長

岡田五郎

右指定代理人

古館清吾

広光喜久蔵

小瀬稔

藤田敏雄

水谷外史郎

高橋竹夫

右当事者間の行政処分取消(所得税及び重加算税賦課決定処分取消)請求事件について、当裁判所は、昭和四五年一一月二四日終始した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

一、被告が原告に対し、昭和四二年四月五日付をもつてした原告の昭和三九年、同四〇年及び同四一年分の各所得税に関する重加算税賦課決定処分は、いずれもこれを取り消す。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

(一)  被告が、原告に対し、昭和四二年四月五日付をもつてした原告の昭和三九年分、同四〇年分及び同四一年分の各所得税及び重加算税賦課決定処分は、いずれもこれを取り消す。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二、被告

(一)  原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決。

第二、主張

(原告の請求原因)

一、被告は、原告に対し、昭和四二年四月五日付をもつて、次のとおり各所得税及び重加算税の賦課決定処分をし、原告は、そのころ右処分の通知を受けた。

(一) 昭和三九年分所得税 五万四、一九〇円

重加算税 一万八、九〇〇円

(二) 同 四〇年分所得税 三四六万八、三〇〇円

重加算税 一二一万三、八〇〇円

(三) 同 四一年分所得税 九五万〇、〇二〇円

重加算税 三三万二、五〇〇円

右の各所得税賦課決定は、原告において、昭和三九年に三七万一、〇〇〇円、同四〇年に八四七万六、〇〇〇円、同四一年に三一九万二、四八〇円の各雑所得が発生したことを理由とし、各重加算税賦課決定は、原告が、当該各年度に右雑所得が発生したにも拘らず、これを申告せず、かつ、右所得が発生した事実を仮装隠ぺいしたことを理由とするものである。

二、しかし、原告には、右雑所得は全く発生していない。従つて、申告の必要もなく、まして、所得の発生を仮装隠ぺいした事実はない。よつて、本件各所得税及び重加算税の賦課決定は、違法なものである。

三、そこで、原告は、右課税処分を不服として、被告に対し、昭和四二年四月二六日、異議申立てをしたところ、被告は、同年五月三一日付をもつてこれを棄却したので、原告は、更に広島国税署長に対し、同年六月一六日審査請求をしたが、右局長は、同年九月二〇日付裁決をもつてこれを棄却し、原告は、同月二六日、右裁決の通知を受けた。

四、よつて、原告は、被告に対し、本件各所得税及び重加算税の賦課決定処分の取消しを求めるべく、本訴に及ぶものである。

(被告の答弁)

一、請求原因第一、三項の事実は認める。

二、同第二項の事実は争う。

(被告の主張)

一、原告は、東邦相互銀行に外務員として勤務するかたわら、訴外大和機工株式会社(以下「訴外会社」と略称する。)のために、環衛信用組合、広島銀行本店、呉相互銀行的場支店、愛媛相互銀行広島支店及び福岡相互銀行広島支店等へ、いわゆる導入預金(導入預金とは、資金を必要とするものが、金融機関からの融資を希望し、金融機関において、融資の条件として一定額の預金を求めた場合、第三者の余裕資金を当該金融機関に預けさせることによつて生ずる預金をいう。)を斡旋し、その謝礼として訴外会社から、昭和三九年に七三万円、同四〇年に八八九万五、〇〇〇円、同四一年に三一九二、四八〇円金員を取得した。

なお、原告は、右謝礼金を取得するについて(導入預金を斡旋するについて)、必要経費を支出していないから(審査請求に際してもその支出を明示しない)、前記謝礼金として取得した金額がすべて雑所得と認定されるものである。

従つて、右の取得金額の範囲内で、原告に対してなされた本件各所得税賦課決定処分は適法である。

二、原告は、当該各年度に、前記雑所得が発生したにも拘らず、確定申告をせず、かつ、訴外会社から前記謝礼金を受領するに当り、野村組なる架空の名称を用い、あたかも訴外会社が行なう宅地造成の下請工事代金であるかのごとく仮装し、雑所得の発生を隠ぺいしたものである。

従つて、国税通則法第六八条第二項に基づいてなされた本件各重加算税賦課決定処分は、いずれも適法である。

(被告の主張に対する原告の反論)

一、原告が、東邦相互銀行に外務員として勤務していた当時、訴外会社の代表取締役滝口博隆から、導入預金の斡旋をして欲しい旨の依頼を受けたことはあるが、みずから導入預金の斡旋したことはない。右滝口からの依頼により、元同僚の訴外亡高橋明夫に紹介された訴外加藤昭三に訴外会社のため、導入預金を斡旋してくれるように頼んだにすぎない。

二、原告は、前記加藤が訴外会社のために導入預金を斡旋した際、訴外会社から右加藤及び導入預金者への謝礼金を受領したことはあるが、その額は、被告主張のごとく多額ではなく、合計金額で四〇〇万円程度である。被告主張の金額の内には、訴外久保田米一が関与したものが含まれている。しかも、原告において受領した謝礼金は、その性質上、導入預金者及び斡旋をした右加藤に対して支払われるべきものであるから、原告は、右謝礼金をすべて右加藤に交付しており、同人からその大部分が各導入預金者に支払われている。従つて、原告が訴外会社から受領した謝礼金も、原告の所得となるものではない。

三、原告が、当該各年度の所得について、確定申告をしていないことは認めるが、それは、前述のとおり所得の発生事実がないからである。そして、原告がことさら、所得の発生事実を仮装隠ぺいした事実はない。すなわち、原告が右加藤に交付すべく訴外会社から謝礼金を受領するに際し、訴外会社において、その帳簿上野村組なる名称を用いて、外注費に計上し、下請工事代金として支出したごとく記帳していたとしても、それは原告の関知しないところである。

第三、証拠関係

一、原告

甲第一ないし第一五号証を提示し、証人滝口博隆、同大久保紀美枝、同久保田米一の各証言並びに原告本人尋問の結果を援用し、乙第七ないし第九号証の各官署作成部分、第一〇号証の一、二、第一一号証の成立を認め、右第七ないし第九号証その余の部分並びにその余の乙号各証の成立は、いずれも不知であると述べた。

二、被告

乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし一三、第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし五、第六号証の一ないし二三、第七ないし第九号証、第一〇号証の一、二、第一一、一二号証を提出し、証人滝口博隆、同大久保紀美枝、同大崎利之の各証言を援用し、甲号各証の成立は、すべて認めると述べた。

理由

一、請求原因第一項(本件所得税及び重加算税の各賦課決定処分の内容)及び同第三項(異議申立て及び審査請求に関する経緯)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、原告は、本件各所得税賦課決定処分の理由とされた雑所得が、発生していない旨主張するので、以下判断する。

(一)  導入預金の斡旋について

証人滝口博隆、同大久保紀美枝の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すれば次の事実が認められる。

原告は、昭和三三年四月から、同四三年四月一〇日まで東邦相互銀行に外務員として勤務し、主に、預金の勧誘業務に従事していたが、昭和三五年ごろ、当時個人企業として土建業を営んでいた訴外滝口博隆から、資金の融資方を依頼されたことから、同人と面識を持つに至り、同人のため個人的に資金繰りの世話をするようになつた。その後、右訴外人は、昭和三八年五月一六日、個人企業を株式会社組織に改組して大和機工株式会社を設立し、代表取締役となつたが、その営業資金に窮し、環衛信用組合、福徳相互銀行広島支店等から融資を受けるについて原告に対し、導入預金の斡旋方を依頼した。(導入預金の性質については被告主張のとおりである。)

そこで、原告は、従来からの前記訴外人との関係上、これを承諾し、東邦相互銀行の外務員として勧誘するかたわら、訴外会社のため導入預金の斡旋を続け、訴外会社が、前記金融機関から融資を受けるため、便宜を供してきた。原告本人尋問結果のうち、右認定に反する部分(原告自身が斡旋したことを否認し、訴外会社のために斡旋者を紹介したにすぎないと述べる部分)は措信できない。

(二)  謝礼金の取得について

前掲各証拠並びに証人大久保紀美枝の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし一三、第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし五、及び証人大崎利之の証言により真正に成立したと認められる乙第一二号証を総合すれば、次の事実が認められる。

前記(一)説示のとおり、原告は、訴外会社のため導入預金の斡旋をし、金融の便宜を図つたことにより、訴外会社から導入預金斡旋額に対し、一か月ほぼ一分ないし一分五厘相当の利息を手数料として受領しており、その各年度における合計額は、別表のとおり昭和三九年に七三万円、同四〇年に八八九万五、〇〇〇円、同四一年に三一九万二、四八〇円である。なお、前掲乙第二号証の三において、昭和四〇年二月一日の支払欄に野村外二の記載が二か所あるが証人大久保紀美枝の証言によれば、いずれも、現実の金員の支払いは原告に対してなされたものと認められる。

原告は、右金額の一部は、訴外久保田米一が関与した導入預金の謝礼であり、右訴外人に支払われたものである旨主張するが、証人久保田米一の証言は、あいまいであり、原告の右主張を証するに足りず、官署作成部分につき、成立に争いのない乙第七ないし第九号証により認められる右訴外人の当該各年度の所得の確定申告額に照らせば、原告の右主張は採用できない。

次に、原告は、原告が訴外会社から受領した手数料(謝礼金)は導入預金者に支払われるべき性質を持つものであり、原告は右手数料を訴外加藤昭三に対して交付し、右訴外人からその大部分が各導入預金者に支払われているから、原告の所得となるものではない旨主張するが、右訴外人に関する原告本人尋問の結果は、きわめてあいまいであり、右手数料交付の事実を証するに足りず、他にこれを立証するに足る証拠はない。

(三)  右の事実によれば、訴外会社から原告が受領した金額は、原告において、訴外加藤ないし各導入預金者に交付した事実が証明されないところから、すべて原告に帰属したものとみなさざるをえない。そして、原告は導入預金斡旋に要した経費を主張・立証しないところから、右金額をもつて原告の雑所得と認定する。

従つて、右金額の範囲内で被告のなした本件各所得税賦課決定処分はいずれも適法である。

三、重加算税について、

原告が、当該各年度の雑所得について、確定申告をしていない事実は、当事者間に争いのないところであり、前掲各証拠によれば、訴外会社が原告に前記手数料を支払うに際し、その帳簿上、野村組なる架空の名称を用い、あたかも訴外会社の行なう宅地造成の下請工事代金として支出したごとく記帳されていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、本件各重加算税賦課決定処分は、国税通則法第六八条第二項に基づいてなされたものであるが、その場合、原告において、積極的に所得の発生を仮装隠ぺいする行為に出ることが要件であると考えられるところ、本件においては、訴外会社の前記帳簿処理の事実に原告が加担したこと、すなわち、右帳簿処理が原告の依頼によるものないし、原告と訴外会社の通謀のうえなされたものであることが必要であると考える。しかしながら、証人大久保紀美枝、同滝口博隆の各証言によるも、原告からいかなる名義の受領証も徴していないのであり、原告からの依頼ないし、原告と訴外会社の通謀により、前記帳簿処理がなされた事実を証するに足りない。

従つて、本件重加算税賦課決定処分は違法であるから、これを取り消すのが相当である。

四、結語

以上の理由により、原告の本訴請求のうち、重加算税賦課決定処分の取消しを求める部分につき、これを認容し、その余の請求を棄却することとし、訴証費用の負担につき、民事訴証法第八九、第九二条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊佐義里 裁判官 塩崎勤 裁判官 井上郁夫)

原告の受領金額一覧表

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以上

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